2021年に劇場または配信で公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。あと、下の方に個人的主演男優・女優、助演男優・女優賞なんかも。

10位『スワロウ』

監督:カーロ・ミラベラ=デイヴィス

主人公が異物を飲み込む姿と、抑圧的な生活の中で自身の声を飲み込む事を余儀なくされる姿には同質の息苦しさを感じるけど、そこに倒錯的な快楽を感じてしまう感覚を艶かしい色彩設計で映し出す。真綿を締め付ける様な展開の数々に、2020年の「透明人間」との共通性を感じました。

9位『花束みたいな恋をした』

監督:土井裕泰

運命を感じざるを得ない誰かとの出会いと、贈り物の様な日々を丁寧に描いた場面でも、常に終わりの予感を含みながら描き出す作劇が本当に見事。今日本で最も旬な20代の2人が主演の話なのに、自分の実人生と重ね合わせて、かつて抱いたことのある、さらには現在進行形の、いろんな「あの感情」の蓋をこじ開けられる一作でした。

8位『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

監督:ジェーン・カンピオン

ベネディクト・カンバーバッチ演じる、牧場経営者フィル。粗野で威圧的でマチズモの塊のような男なのに、どこか自分を意識的に「男らしさ」の呪いの中に閉じ込めているような心理的背景を、スリリングに描き出す。登場する役者の演技は全員絶品ですが、コディ・スミット=マクフィーの、無垢さと底の知れなさを混じり合わせた、瞳での演技が凄い。

7位『偶然と想像』

監督:滝口竜介

登場人物に訪れる、偶然性をベースにした悲喜劇の数々。行き先の全く読めない会話劇に、笑ったり泣いたり、後ろから刺されたり、ひそかにスリルが横たわる。「偶然」という不確かで寄る辺ないもの、でもそれに意味づけをする自分達人間に物語を託す、濱口監督のまなざしを体感する。

6位『あのこは貴族』

監督:岨手由貴子

階層、性差、地域差。そんなレッテルを剥ぎ取れば、顔も見えない他者とも共生できる可能性を示唆する後半の展開に展開に震えました。シスターフッド的な関係の在り方を中心に据えながらも、男性側もまた同じような抑圧の下に生きている事にも言及する視点も印象的。

5位『最後の決闘裁判』

監督:リドリー・スコット

映画のポスタービジュアルでは「中世の男同士の決闘の話」のような勇ましさを表現しながら、それは完全にミスリードで、むしろ有害な男らしさの醜悪さを浮き彫りにした一作でした。3章構成の物語を通じて、信じたい物語しか見ない人間(男)によって、女性側から見た現実が剥ぎ取られ、書き換えられていくさまが、克明に描き出される。

※性暴力にまつわる描写があるので、鑑賞前にあらすじの確認を推奨します。

4位『街の上で』

監督:今泉力哉

普通の映画ならカットされる様な台詞や瞬間にこそ光を当てる、今泉力哉監督ならでは視点の真骨頂。劇的な変化も成長もない日常の中に、ひそかに横たわる街や人の死の匂いも感じられて、その時間を抱きしめたくてたまらなくなる2時間。

3位『ファーザー』

監督:フローリアン・ゼレール

主人公に忍び寄る「老い」にまつわる恐怖を、映画を構成する舞台・衣装・編集などの全要素を駆使しながら体感させる。自分が知覚しているはずの「この世界」が足元から崩れていくこと=自分が自分を失うことの圧倒的寄る方なさを、観衆に突きつけた一作。主演2人の演技が異次元の領域でした。

2位『ドライブ・マイ・カー』

監督:監督:滝口竜介

外から見ると頑丈で強固だけど、壊れやすいもの。一人で閉じこもることができるもの。他者とコミュニケーションを図る場にもなりうるもの。自分で運転することも、他人に運転を任せることもできるもの。
「車」というモチーフを、主人公家福が辿る魂の旅路と重ね合わせながら、最終的に浮かび上がるのは「傷つくこと」と「他者を理解すること」についての、一見身も蓋もない人生の真実。それでも、作中の劇中劇の演出同様に、形容しえない「何かが起きる瞬間」を信じ続けることを描いた一作でした。

1位『プロミシング・ヤング・ウーマン』

監督:エメラルド・フェネル

今年1番、自分の価値観を一変させてくれた、変えざるを得ない意識を植え付けてくれたのがこの一作でした。性被害にあった友人の復讐の話を通じて、鉄槌が下されるのは、作中の加害者だけではなく、むしろ映画を観ている自分たち。鑑賞後に自分の人生を振り返って、他者とどう接してきたのか、本作の主人公キャシーに顔向けできるかという尺度で照らし合わせることを余儀なくされる。持ち帰るものがとても重いのですが、「自分はまともな人間」という自意識の疑わしさ、危うさを知る上でも、この映画を観ることから始められて良かったです。

【主演女優賞】

キャリー・マリガン(『プロミシング・ヤング・ウーマン 』)

【主演男優賞】

ベネディクト・カンバーバッチ(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)

【助演女優賞】

オリヴィア・コールマン(『ファーザー』)

【助演男優賞】

仲野太賀(『 すばらしき世界』)

【ベストオープニング賞】

『クワイエット・プレイス PART2 』

【ベストエンディング賞】

『ドント・ルック・アップ』




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