2020年に劇場または配信で公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。あと、下の方に個人的主演男優・女優、助演男優・女優賞なんかも。

10位『アルプススタンドのはしの方』

監督:城定秀夫

青春のメインストリームに乗れなかった僕ら全員に対しての鎮魂歌。自分の「報われていない」と思ってた青春も、今思えばかけがえない時間だったのかも、と思わせてくれる一作でした。同時に、「まんなか」に見える人達の事も単純化して描かない品の良さも見事で、「キャラクターを一方向のみで定義しない」っていうフェアな視点は、邦画洋画問わず、今年の青春映画に共通する美点のように感じました。

9位『透明人間』

監督:リー・ワネル

観終わった後の興奮度は今年ベスト級。「透明人間=可視化できない力や磁場で、他者をコントロールするマジに最悪な男性性」そのものへの痛烈な批評でありながら、最終的には溜飲下がりまくりのエンターテイメント性も備えた作品でした。
カメラが何もないはずの場所を写すことで、「そこに何かいるかもしれかい怖さ」を増幅させたりと、ホラー映画的な演出も抜群。8

8位『his』

監督:今泉力哉

マイノリティの生きづらさを中心に置きながらも「所属するコミュニティでどう生きるか」「子供と仕事への向き合い方」「親権をめぐる離婚調停」とか、誰でも共感可能な要素に富んだ作品でした。
役者さんのアンサンブルも完璧で、普通の会話シーンひとつひとつが切実なんだけどコミカルにも見えて、そういう行き届いた演出の積み重ねが、この作品全体が持つどこか特別なトーンを印象付けている気がしました。

7位『ジョジョ・ラビット』

監督:タイカ・ワイティティ

他者との交流の中で自分を省みて、世界を知る事で、自分が閉じこもっている殻の存在に気づく。そんなドラマチックかつ普遍的な話を、「ナチスに憧れる男の子」を主人公にして描くっていう、極めてスリリングな作劇。それなのに誰にも開かれた作品に仕上げた、タイカ・ワイティティ監督の手腕に脱帽しました。エンドクレジットへの入り方のリズムが完璧。

6位『ミッドサマー』

アリ・アスター

そこに映る全てが恐ろしいのに、隅々まで美しい。心底目を背けたくなるのに、もう一度観たくなる。相反する感情が掻き立てられる悲惨極まりない悪夢のレールの先に、いつの間にかこちらも説明不能のカタルシスに包まれていました。
自身の個人的な経験を「無邪気な若者たちが知らない土地に訪れて恐ろしい目に合う」っていうホラー映画の定番の軌道に乗せた上で、自らのセラピーとして機能させつつ、ここまで異様な作風に仕上げる。アリ・アスター監督の作品は、「自分の物語を語る」っていう、何かを創作するうえでの最も原初的な動機を呼び起こさせてくれるからこそ、トラウマ的なショックと中毒性が両立しているような気がします。

5位『37セカンズ』

監督:HIKARI

障害を抱えた少女が主人公の話、ということを途中から忘れて、むしろ彼女のような世界認識で生きたいと思うほど、主人公・夢馬の魅力に心を奪われてしまいました。ある大事な場面での「でも、私で、良かった。」っていう、「自分が自分である事の全肯定」とも言える様な台詞の余韻に、未だに浸り続けています。

4位『燃ゆる女の肖像』

監督:セリーヌ・シアマ

こちら側が一方的に見ていた他者から「見返される」事によって、物語が廻りだす。あるいは、「振り返る」もしくは「振り返らない」事で、物語に大きな余韻をもたらす。極上の視線演出と、最小限だからこそ余計突き刺さる劇判に、感情を鷲掴みにされました。
劇中の孤島での数日間は、主人公たちの周囲に横たわる男性優位の社会っていう過酷な現実を排した一時の楽園のように見えて、その瞬間は長くは続かないけど、彼女達に宿り続ける情熱を体現した絵画=映画のタイトルに鳥肌。

3位『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

監督:オリヴィア・ワイルド

いわゆるスクールカーストみたいなものが「個々の思い込みの中の幻影なのかも」と思わせてくれるぐらい、作中描かれる価値観全てが新鮮で、それを最後まであくまでコメディ映画のフォーマットの中で描く姿勢が超クールでした。主演2人以外の登場人物全員の物語も観たくなるような、各キャラへのスポットの当て方も最高。
『スーパー・バッド 童貞ウォーズ』の精神的続編とも言える作品ですが、そのラストの感慨を継承しながらも、彼女達ならではのアンサーとなるような幕切れも見事でした。

2位『はちどり』

監督:キム・ボラ

大人でも子供でもいさせてもらえない、「中学2年」っていう特殊な時期を、切実すぎるほどの寄る辺なさを抱えながら生きる少女ウニ。説明的要素を完全に排除した語り口と、決して型通りに定義しない登場人物の描き方によって、自分達の周囲にただよう世界が持つ不条理性・可能性に、彼女が気づきはじめる過程を繊細に描き切る。そんな小さな物語の先に「大きな物語」としての、ある実際の出来事が立ち上ってくる構造は、『この世界の片隅に』的でもあると思いました。

1位『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』

監督:アリス・ウー

ある種古典的な話の枠組みなのに、作品を構成する様々な要素が「2020年」としての新しさに富んだ最高の青春映画でした。登場人物全員に向けるフェアなまなざしはもちろん、舞台である閉鎖的な田舎町すらも、どこか特別でドラマチックな舞台に魅せる、映画全体のルックの美しさも印象的。
知的であるが故に、陳腐なものに対して冷笑的だった主人公を、映画のラストで優しく送り出す演出が本当に素晴らしくて。
作中何度も言及される「山場」という台詞の通り、登場人物達の、そして自分たちにとっての「山場」は、まだまだこれから先の未来に待ち受けている。そんな感慨を残してくれる作品でした。

【主演女優賞】

ノエミ・メルラン/アデル・エネル(『燃ゆる女の肖像』)

【主演男優賞】

クリスチャン・ベール『フォードvsフェラーリ』

【助演女優賞】

スカーレット・ヨハンソン(『ジョジョ・ラビット』)

【助演男優賞】

ルーカス・ヘッジズ(『mid90s ミッドナインティーズ』)

【ベスト子役賞】

アジー・ロバートソン(『15年後のラブソング』)

【ベストアクション賞】

『オールド・ガード』

【ベストオープニング賞】

『ストーリー・オブ・マイライフ/私の若草物語』

【ベストエンディング賞】

『マティアス&マキシム』
『ペイン・アンド・グローリー』
『燃ゆる女の肖像』




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