2022年に劇場または配信で公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。あと、下の方に個人的主演男優・女優、助演男優・女優賞なんかも。

10位『わたし達はおとな』

監督:加藤拓也

分かり易い説明台詞は排除され、まるで実際存在する人々の日常を切り取ったかのようなリアルな会話劇。交錯する過去と現在から浮かび上がる登場人物達の未熟さと苦しさは、今の自分の中にも息づく何かのようで、全く他人事に思えませんでした。

9位『パリ13区』

監督:ジャック・オディアール

冒頭モノクロの画面から映し出される、夜のパリ13区の諸相でなぜか涙ぐむ。思い通りにいかない人生の中で、成り行きで繋がって、別れて、思ってもみない感情に出会う人々。この街と映画を纏う全ての空気が好きでした。登場人物は全員大人のはずなのに、幕切れの後に訪れる、青春映画を観終えた後のような余韻。

8位『マイスモールランド』

監督:川和田恵真

日本で暮らす、在留資格を剥奪されたクルド人一家の物語から照射されるのは、その物語を見る側の自分達側の視線。主人公サーリャを取り巻く事なかれ主義の登場人物達に絶望しつつも、その全員が自分であることを知る。嘘であってほしい現実を目の当たりにした後の、自分たちの具体的な行動を問われるような一作でした。

7位『リコリス・ピザ』

監督:ポール・トーマス・アンダーソン

登場人物の主観に寄り添い、あの頃劇的に思えた瞬間達を幻想的に描き出す。物語と人生が文字通り「走り出す」シークエンスが浮上する度、70年代LAを知らない自分が観てもなぜか感傷的な懐かしさが押し寄せる。『あの頃ペニーレインと』のフィリップ・シーモア・ホフマンと重なる電話シーンでの横顔に涙。

6位『ちょっと思い出しただけ』

監督:松居大吾

時間を定点観測的に遡ることで、あるカップルの関係や世の中の移ろいを浮かび上がらせる。主演2人以外の名もなき人々への配役を見ても、この世界に生きるあらゆる人への射程を感じさせる視点の広がりも良かったです。だからこそ、恋愛初期の「そんな世界に自分達2人だけ感」も一層際立つ。

5位『カモンカモン』

監督:マイク・ミルズ

劇中引用される「星の子供」の一節がこの映画全体を物語る。愛しい瞬間も旅の記憶も、いつかは全て忘れてしまう。理解困難なクソ人生の意味はわからず、だからこそ他者に、世界に耳を傾ける。美しいモノクロ映像を、自分のかつての記憶を照らすように、何度も思い出したい映画でした。

4位『秘密の森の、その向こう』

監督:セリーヌ・シアマ

本筋は「子供のひと夏の不思議な冒険」なのに鑑賞後の訪れる感慨は、親子関係の新たな可能性の広がりとか女性同時の連帯みたいな開放感。親と子も、人と人として理解できる可能性。子供がもうこの日々は戻らないと気づく瞬間のエモーションは『フロリダ・プロジェクト』を連想。

3位『ケイコ 目を澄ませて』

監督:三宅唱

劇場に鳴り響くケイコには聞こえていない音に囲まれながら、物語が進むにつれて彼女だけ見えていた世界が物凄いエモーションと共に垣間見えていく。無理解と分断が加速するポストコロナ後の東京で、ケイコの生き様を受けて自分たちはどうするの?を突きつけられるような大傑作。基本的に主人公ケイコの視点に寄り添いながらも、彼女と同じようなひたむきな努力を惜しまない他者の存在にも目配りを送りつつ、彼女たちが生きる東京の街を捉え続けるエンディングも見事。

2位『トップガン:マーヴェリック』

監督:ジョセフ・コシンスキー

要素を足さず引かず「真摯にアメリカ映画をやる」を狂気なまで突き詰めた結果誕生した大傑作。映画というアートフォーム自体の在り方が揺らぐ時代に、それでもトム・クルーズがいる限り「映画が終わるのは、今日じゃない」と思わせてくれる。劇中言及される「達成しなければいけない2つの奇跡」を超えて、この映画の存在自体が3つ目の奇跡だと思いました。

1位『わたしは最悪。』

監督:ヨアキム・トリアー

可能性の喪失を恐れ、可能性を留保にしておきたい、30才を迎える主人公ユリア。ひときわ印象的なのは、「変われない」自分だけがオスローの街を逡巡して歩き回る中、「変わっていく」空の景色。そしてそれと対になるような、静止した世界で自分だけが疾走する、主人公の想いが結実した幻想的なシークエンス。『リコリス・ピザ』と同じように、登場人物が走り出すと同時に停滞していた人生が文字通り動き出す、エモーショナルな瞬間でした。

【主演女優賞】

岸井ゆきの(『ケイコ 目を澄ませて 』)

【主演男優賞】

稲垣吾郎(『窓辺にて』)

【助演女優賞】

アンジェラ・バセット(『ブラック・パンサー:ワカンダ・フォーエバー』)

【助演男優賞】

中島歩(『 愛なのに』)

【ベストオープニング賞】

『THE FIRST SLAM DUNK』

【ベストエンディング賞】

『NOPE』


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