2022年に劇場または配信で公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。あと、下の方に個人的主演男優・女優、助演男優・女優賞なんかも。

10位『アシスタント』
監督:キティ・グリーン

憧れの映画業界に就職した女性の一日を通じて、社会全体に横たわる抑圧や暴力的システムを炙り出す。搾取的な事務作業&ハラスメントが常態化する無間地獄の中で、彼女の声を握りつぶす様々な「音」の演出に、窒息しそうになる。映画終盤の「明日もまた同じ日なのか?」という問いは、我々観客に委ねられている。

9位『フェイブルマンズ』
監督:スティーブン・スピルバーグ

映画の魅力や両親の愛情と、その危うさや人生のままならなさを等しく語る、どこかハッピー&サッドな空気が全編を包む。妻&母あると同時に自分の人生も抱きしめるミシェル・ウィリアムズの演技が極上。『桐島、部活やめるってよ』に近い青春の苦い幕切れに涙。ラスト1秒での粋な演出で、無条件で拍手させる手練れすぎるテクニック。

8位『Pearl パール』
監督:タイ・ウェスト

シリアルキラーの誕生譚をテクニカラー調の色調豊かなルックで描く。家という籠の中、ここではないどこかを渇望し夢を見る主人公パール。前作を踏まえると彼女の終着点が分かる故に悲痛さがつのる反面、そんな同情を爽快なまでに裏切り、首ごと吹っ飛ばす快作。

7位『バービー』
監督:グレタ・ガーウィグ

現実の男女の非対称性を反転させた「バービーの世界」で社会のジェンダー規範(特にココ日本)をシニカルに炙り出し、その先の「何者か」以降の開放的未来を示し、ラスト1秒に至るまで過去の物語からの脱却を宣言。男性が積極的に観るべきという点で『プロミシングヤングウーマン』の精神的続編。道徳の授業とかで流すべき大傑作。

6位『逆転のトライアングル』
監督:リューベン・オストルンド

経済格差・階層構造・ルッキズム・SNSマーケティング。現代社会に横たわるテーマを3章立ての舞台設定の中で炙り出し、シチュエーションによる権力構造の逆転を描き出す。その場の覇権を握る権力が多かれ少なかれ腐敗していく世の常をシニカルに照らす不条理コメディ。

5位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
監督:マーティン・スコセッシ

油田で富を成したオセージ族に寄生/搾取してきたアメリカの負の歴史を、加害側の下劣さを哀愁も込めながら描き出す。虚勢的な野心を軸に走り出して溝にはまっていく、粗野で軽薄な主人公の姿にも落涙を誘うディカプリオの名演。先住民への敬意を込めた音の演出にも痺れる。

4位『バーナデッド ママは行方不明』
監督:リチャード・リンクレイター

原作があるとは思えない程、リンクレイター監督の集大成的とも言える作家性を帯びた、かつ誰が観ても感動できるウェルメイドな一作。人を理解することは重要ではなく、そう思えるかどうか。そして人生を楽しめるかどうかは自分次第。小さな物語の中で、芯に響く人生哲学を盛り込む。

3位『TAR/ター』
監督:トッド・フィールド

観る側の能動的な鑑賞を促す、圧倒的密度の「問い」に溢れた大傑作。常に不穏な緊張が漂う彼女の周りの世界は、Jホラー的な心霊映画にも拡張していく。主人公が堕ちるサイコスリラー的パッケージより、「最初から壊れていた主人公の再生への旅」のような希望に満ちた後味に思えた。鑑賞するたびに印象が変わるラストに巨大な感動が訪れる。

2位『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

監督: ホアキン・ドス・サントス/ケンプ・パワーズ/ジャスティン・K・トンプソン

実写映画の限界を軽やかに超えて、アニメ表現だから可能な世界のさらにその先を目指す、モダンアートのような一作。心象風景までも自由闊達な筆致で描き、青春とヒーロー活動を天秤にかけるヒーロー映画としての成長譚、親&子離れの感傷、魅力的すぎるキャラクター、そして運命に抗い自分の物語を語ろうとする主人公。

1位『アフター・サン』
監督:シャーロット・ウェルズ
この映画を思い出すたび、いつかの自分の記憶を覗き見ているような感覚に陥る。
20年前、大人前夜の自分が見過ごしていた、今の自分と同い年の父親と出会うための記憶の旅。旅の終わりの、「名残惜しいけどずっとここにはいられないか」という台詞と呼応する「父親が居る場所」がもたらす巨大な余韻。説明的要素がほぼ排除されているのに、全場面が示唆的で、圧倒的密度に溢れた一作。

【主演女優賞】
キャリー・マリガン(『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』)

【主演男優賞】
ポール・メスカル(『アフター・サン』)

【助演女優賞】
タン・ウェイ(『別れる決心』)

【助演男優賞】
田村健太郎(『ほつれる』)

【ベストオープニング賞】
スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

【ベストエンディング賞】
TAR/ター

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