2019年に劇場公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。
あと、下の方に個人的主演男優・女優、助演男優・女優賞なんかも。

10位『ジョン・ウィック:パラベラム』
監督:チャド・スタエルスキ

まるでダンスを見ているかのような、新鮮なアクションシーンの連べ打ちで、これはもはや『ジョン・ウィック』というアート作品だと思いました。
でも決して高尚な所におさまらず、フィクション的ケレン味とか、コメディ要素も付加するバランス感覚もまた見事。

9位『運び屋』
監督:クリント・イーストウッド

ドラッグディーラーとして犯した罪そのものよりも、「何かから目を背けて生きてきた時間」についての贖罪の話。
実話をベースにしながら、「時代遅れのマッチョな白人像」に対する批評性と、イーストウッド監督自身の人生の回顧を重ね合わせつつ、社会と家族の狭間に生きる全ての人に突き刺さる傑作でした。
メリハリのある、無駄のない演出のキレ味の極み。

8位『真実』
監督:是枝裕和

記憶という不確かなものの中に介在する、それぞれの「真実」。
過去も、作中の数日間の出来事も、またその曖昧さの中に回収されていく。
だけどその端々に表出した仕草、胃が痛くなる空気感、あるいは多幸感のような、普通は物語たり得なそうな、それこそ自分達の日常に潜む「真実」を掬いとった、是枝監督のまなざしに脱帽しました。

7位『アベンジャーズ/エンドゲーム』
監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ

鑑賞前の期待の高まり。鑑賞中の高揚感。鑑賞後の喪失感。
作品の前後まで含めた映画体験として、ひとつの作品にこれほど感情を掻き立てられることって、中々ないと思うんです。

そういう渦を、世界規模で巻き起こしたこの作品には、本当に感謝しかありません。

6位『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』
監督:ボー・バーナム

色んなコンテンツから受け取る「ありのままで良いんだよ」的メッセージ。
そんなこと頭ではわかってるけど、自身の実像があまりに惨めなので、「理想化されたありのまま像」みたいな虚像を演じて、それを追い求めてしまう。

そんな焦燥感を感じている主人公ケイラの姿は、大人になった自分が観ても、完全に共感できるキャラクターでした。「理想の自分になれなくてごめん」と、過去の自分に顔向けできなくなるような瞬間って、ありますよね…

それでも最後は、「理想の自分になれても、なれなくても、人生は最高。」っていう、真の意味での自己肯定の景色を見せてくれるところが素晴らしかったです。

5位『宮本から君へ』
監督:真利子哲也

漫画原作の実写映画の中で、生涯ベスト級の一本でした。
ドラマ版も素敵でしたが、それとは全く別物と言って良いような、映画的作劇に徹した本作。

狂気的なまでの愚直さ全開の主人公、宮本を演じる池松さんはもちろん、恋人靖子演じる蒼井優さんの演技も完全に別次元に。
登場人物と作り手の方々全員の覚悟が滲み出て、もはや何らかの念が込められたような一作でした。

4位『マリッジ・ストーリー』
ノア・バームバック

いわゆる「夫婦崩壊モノ」の中で、また大好きな一作が生まれてしまいました。
互いが互いに敬意を持って、愛していることも痛いほどにわかるからこそ、変質していく二人の関係が、いたたまれなく…

特に、長回しで展開する口論シーンの取り返しのつかなさは、主演二人の熱演もあいまって、リアルで、切実なものでした。
それでも、ラスト付近に訪れる「過ぎ去った美しい過去」と、「美しい未来への希望」が同時に立ちのぼる場面が、この作品全体の印象を決定づけている気がします。

3位『家族を想うとき』
監督:ケン・ローチ

父親のある選択によって、逃れられない、不条理な社会システムの中に飲み込まれていくある一家の物語。
監督のケン・ローチさんの前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』同様に、普通に暮らすことすら困難になっている、世界の現実を描き出した一作です。

原題は「Sorry We Missed You」。
宅配便の不在票に記載される定型文が、そのままタイトルになっています。
これもまた重い意味合いを持ってるんですが、「家族を想うとき」という邦題も、この作品の後読感のようなものに、すごく合っていると思いました。

印象的だったのは、作中一貫して、聖母のようなあたたかいまなざしを持った登場人物が、「その人がその人でなくなってしまう瞬間」を捉えた場面でした。
どんなに優しく人間らしい心を持った人も、あまりに不条理な状況に陥ったり、人間的な尊厳を踏みにじられると、「その人らしさ」すら剥ぎ取られてしまう。
そんなあまりにも悲しい場面から浮かび上がるのは、「何かその人をそうさせたか?」っていう、社会システム全体への怒りのような感情です。

本作の舞台はイギリスですが、ワーキングプア、ゼロ時間契約といった問題は、他人事ではなく、もちろん日本に住んでる我々にも突きつけられる現実です。
オープニング、父親が物語の発端となる事態に一歩を踏み出す場面は、画面が真っ暗で、台詞だけが鳴り響く演出になっています。
このことによって、これから始まる話は、この一家だけのことではなく、誰にでも当てはまる話というニュアンスが、より印象付けられるような気がしました。

2位『ジョーカー』
監督:トッド・フィリップス

映画好きというわけでもない人との会話の中で、「○○観ました?」みたいな感じで、カジュアルに出てくるタイトルってありますよね。
つまり、「大ヒットしてるよね」が前提になっている作品というか、具体的には、

「君の名は観ました?」
「ララランド観ました?」

こんな風な使われ方をする映画たち。

そこにまさか、今年『ジョーカー』が入るとはまったく想像してませんでした。完全に一般層まで巻き込んだ大ヒットにつながったこの映画が、多くの人を惹きつけてやまない要素は、一体どこにあるんでしょうか?

・アメコミ原作の映画であること。
・「ジョーカー」という、アメコミヴィランの中で最大のキラーコンテンツであること。
・アメリカンニューシネマに代表される、様々な過去作の香りをまとった映画であること。
・貧困や社会の不条理性にまつわる話であること。

こういう風に、作品やその成り立ち含め、多層なレイヤーに分かれた見所があるので、いろんな人の興味にひっかかりやすい構造、というのはあるかもしれません。

だからこそ、人々がさまざまな角度からこの作品を眺めて、議論をして、見えていなかった要素が、立体的になっていく。

話の展開だけを追えばわかりにくい話ではないのに、そういう解釈余地を巧みに潜ませているのが、この映画の深みの部分だと思いました。

なおかつ、そういう議論を経て映画の輪郭が浮き彫りになった先に見えるのも、それら議論を嘲笑しながら踊る、ジョーカーの姿。

底が知れない、いまだに観終わっていないような感覚になる一作でした。

1位『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
監督:クエンティン・タランティーノ

 

タランティーノ監督による、1969年のハリウッドのスケッチ。
「監督からの、当時のハリウッドへのラブレター」という触れ込み通り、溢れるような愛に満ちた一作でした。

全編通じて映し出される当時のハリウッドの景色や、どこかなまめかしいリッチな質感を感じとるだけで、すごく至極な時間を過ごしているような感覚に包まれました。

話としては、途中までは一見起伏の少ない作りになっています。
だけどそこにも仕掛けがあって、登場人物のひとりの実在の女優、シャロン・テートさんに1969年に実際に起こった事を知っていると、一見きらびやかな当時のハリウッド周辺に潜む、不穏な側面が垣間見えるだけで、すごくスリリングなんです。そういう意味では、片渕須直監督の『この世界の片隅に』を観ている時と、すごく近い感情の動きをつくりだす作劇だなあと思いました。

そしてシャロン・テートさんを演じるマーゴット・ロビーさんが、「悲しい史実が待ち受けている人」のように、過度にヒロイックな存在としては描かれないという所も、すごく胸を打たれる部分でした。

「その素晴らしい人は、ただ当たり前に、そこにいた。」

そういう「普通だからこそ、尊い存在」という感慨を与えるため、あえて抑制をきかせた語り口にしたところに、監督の優しい眼差しが込められていると思いました。

そして物語の最後では、「映画」というか、「物語」が世の中に存在することの意義を、改めて認識させられるような、ある展開が待ち受けています。
笑いながら、泣きながら、拳を握り締める。
不思議な感情に包まれたまま、エンドロールを迎えました。
「忘れられていたもの」に光を当てて映画的な救済をもたらし、同時に作品自体がそれらへの鎮魂になるような、紛れもない大傑作。

【次点(順不同)】

『クリード 炎の宿敵』
『スパイダーマン:スパイダーバース』
『ビール・ストリートの恋人たち』
『愛がなんだ』
『アメリカン・アニマルズ』
『魂のゆくえ』
『誰もがそれを知っている』
『旅のおわり世界のはじまり』
『ゴールデン・リバー』
『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』
『ボーダー 二つの世界』
『アイリッシュマン』

【主演女優賞】
前田敦子さん(『旅のおわり世界のはじまり』)

【主演男優賞】


ホアキン・フェニックスさん(『ジョーカー』)

【助演女優賞】


蒼井優さん(『宮本から君へ』)

【助演男優賞】


イーサン・ホークさん(『真実』)

【ベスト子役賞】
クレモンティーヌ・グルニエさん(『真実』)

【ベストアクション賞】


『ジョン・ウィック:パラベラム』

【ベストオープニング賞】

『マリッジ・ストーリー』

【ベストエンディング賞】

『アイリッシュマン』

LINEで送る