2018年に劇場公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。
あと、下の方に個人的主演男優・女優、助演男優・女優賞なんかも。

1位『寝ても覚めても』
監督:濱口竜介

大学時代に突然姿を消した元恋人を忘れられずにいる主人公・朝子は、
ある日、彼とうりふたつの男性と出会う…

こういう話の筋だけ聞くと、
少女漫画チックな内容のようにも思えるんですが、
実際観てみると、予想と全く違う次元の一作でした。

まず素晴らしいのは、この映画で描かれる、
人と人が出会って恋に落ちる瞬間や、
恋だったものが愛に変わっていく過程。
そういう人生のドラマチックな瞬間を
巧みに切り取っていく、繊細な演出が見事なんです。

そして、 それらを丹念に積み重ねた後に待ち受ける
「ある展開」 があるんですが、
そこが個人的に今年一番「怖い」と感じた場面でした。

具体的には、
それまで感情移入していたある登場人物の、
思いもかけない突飛な行動。
そこに恐怖というか、 困惑を抱いてしまったんです。

その感情の原因を考え続けているんですが、
突き詰めると「他者と理解しあうことの困難さ」
みたいなものが立ちのぼってきたことへの恐怖なのかもしれません。

人は、自分でも理解不能な行動を取ってしまう生き物なので、
ましてや他者と完全に理解し合えるって、
実質不可能に等しいことなんじゃないかと思うんです。
そういう「相互理解の困難さ」を、
この映画を通じてショッキングなかたちであらためて痛感させられたんです。

でも、この映画がなお素晴らしいのは、
そういう「理解不能な他者と自分」を描いたうえで、
それでもその人とどう向き合っていくべきかという、
未来への示唆的な視点も描いてる点だと思いました。

人は、どうしたって、理解できない現実よりも、
夢や幻想に思いを馳せてしまうものです。
それでもなお、現実を生きていくことを選び取る人々。
そんな彼らを見つめる、
映画そのもののまなざしが美しい大傑作でした。

2位『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
監督:ショーン・ベイカー

子供目線では夢のような毎日でも、
同時にその周囲に横たわる「貧困」っていう
圧倒的現実にも目を向けさせられる、
愛しさと苦しさが常に混在する作品です。

そういう二重性みたいなものが、
「劇映画だけど、実際の世界の姿を映したドキュメンタリーでもある」
という、この映画の構造自体とも符号した重層性が特長的でした。

映画の細部にもきちんと血が通っていて、
ウィレム・デフォーさん演じるモーテルの管理人の、
「父親」としての役割をめぐるある展開があるんですけど、
そこは話の本筋とはほぼ関係ない短いサブストーリーなのに、
それがあることによって彼のパーソナリティに深みが出て、
ひいては物語全体の厚みにも繋がるような。
そういう抜かりない丁寧さが印象的な映画でした。

3位『デトロイト』
監督:キャスリン・ビグロー

1967年の「デトロイト暴動」のあった一夜を、実話ベースで描いた一作。
それまで不当な扱いを受け続けていた黒人市民が起こした暴動と、
それを鎮圧する警官側の立場を描いた話です。

最初はわりと、 暴動のはじまりのようすを、
当時の実際のニュース映像も使った、
客観的視点から描きだしていくんですが、
その視点がどんどん黒人側の立場にスライドしていく事で、
彼らが置かれた状況っていうものがいかに理不尽極まりないかを
追体験させられる構造になっています。

そしてこの映画の中では、
差別とかバイアスみたいなものが極致まで達すると、
絶望としか言えない断絶が生まれる怖さが容赦無く描かれます。
「自分がここにいたらどうするだろう」っていう想像すら
避けたくなるような、恐ろしい場面の連続。

作中描かれるような不当な差別や偏見は、
現実の世界でも毎日起こっているわけで、
「想像からも逃げたくなっている自分」すら、
「広義での無関心」と言えるのかもと自問させられるような…
悲しさと怒りが、渾然一体となったような作品でした。

4位『タイニー・ファニチャー』
監督:レナ・ダナム

劇場未公開だった2010年の作品。
内容としては、レナ・ダナムさん演じるオーラが実家に戻ってきての数日を、
日常会話中心に切り取るだけ。
なのに巨大な感動をもたらしてくれるのは、
「何者か未満であるオーラ(=観客)」に対して、
「”何者かの人”も、今の自分の延長線上の存在なのかも」って思わせてくれる、
優しい視点が並列されてるからだと思いました。
全場面を思い出しては愛しくなるような、
とても大切な一作になりました。

5位『タリーと私の秘密の時間』
監督:ジェイソン・ライトマン

子育ての美しさと、苦すぎる現実。その両面を描きながらも、
「過去」とか「若さ」に幻想を託して、
今の自分を肯定できない自分たち全員に対する、
すっごい意地悪だけど、
すっごい優しい余韻を残してくれる映画でした。

6位『ア・ゴースト・ストーリー』
監督:デビッド・ロウリー

「そこに留まり続けて、状況を見つめるしかできない」っていうこの映画の中でのゴーストの立ち位置が、
映画っていう干渉不能なものを観ている自分=観衆の視点と一致して、
言語化不能なぐらい終始泣き続けてしまいました。
人は何のために生きるのかっていう普遍的な問いにも言及した傑作。

7位『レディバード』
監督:グレタ・ガーウィグ

青春の終わりと、「ここではないどこか探し」を描いた
系譜の作品における、新たな傑作でした。
自分が中指を立ててたモノや、不本意に背負ってた十字架こそが、
自己形成にも依拠している大事な要素なんだって気づいた時に、
人は大人になるんだと思いました。

8位『search/サーチ』
監督:アニーシュ・チャガンティ

“全場面PCかスマホの画面で展開”っていう斬新な手法なのに、
画面を見てるだけで、登場人物の葛藤とか内面が異常なほど的確に伝わってくる。
台詞じゃない部分で物語を語っていくっていう意味で、
とても映画的魅力に満ちた作品でした。
「父娘映画」として、素直に素晴らしかったです。

9位『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』
監督:ジェイク・カスダン

登場人物が、物語を通じて自分に欠けているモノに気づいたり、
他者への共感性を身につけたり。
青春映画としても普通に傑作だと思いましたし、
シンプルかつグサッとくる「ある台詞」で涙腺決壊してしまいました。
今年観た中で、別に映画を普段観ないような人にイチオシ、
といえばコレかもしれません。

10位『カメラを止めるな!』
監督:上田慎一郎

口コミで記録的な大ヒットとなった一作なので、
面白いことは立証されてるので、
あえてベストに入れるか悩んだんですが、
でもやっぱり、劇場で観た時の観客の
あの一体感は忘れることできないです。

作中言及もされる、とある「無茶」なことは、
当然観衆の自分たちも「無茶」と思うんだけど、
でも実際には「その無茶の何倍以上かの無茶」が
現実に実現していることへの感動とか感謝とか。
そんな思いが去来する大傑作でした。
「映画って最高!」と素直に思ってしまいました。

【次点(順不同)】

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』
『心と体と』
『タクシー運転手〜約束は海を越えて〜』
『デッドプール2 』
『イコライザー2 』
『生きてるだけで、愛。』
『へレディタリー 継承 』

【主演女優賞】
趣里さん(『生きてるだけで、愛。』)

【主演男優賞】
ソン・ガンホさん(『タクシー運転手〜約束は海を越えて〜』)

【助演女優賞】
ナッツ・シトイさん(『愛しのアイリーン』)

【助演男優賞】
ウィレム・レフォーさん(『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』)

【ベスト子役賞】
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のキャストみんな

【ベストアクション賞】
『悪女』『ミッション:インポッシブル フォールアウト』

【ベストオープニング賞】
『search/サーチ』

【ベストエンディング賞】
『デッドプール2』

LINEで送る