2017年に劇場公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。

あと、下の方に個人的主演男優・女優、助演男優・女優賞なんかも。

 

1位『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

監督:ケネス・ロナーガン

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<あらすじ>

ボストンでアパートの便利屋として働く、主人公のリー。彼は周囲との交流を極力避け、孤独な生活を送っている。そんな彼のもとに届いた、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに住む兄の訃報。

リーが葬式の手配のため故郷に戻ると、「高校生の一人息子、パトリックの後見人になってほしい」という兄の遺言が残されている事が判明する。

戻りたくなかった故郷での暮らし、そして、パトリックとの共同生活を送る中で、リーに隠された壮絶な過去が明らかになる。

 

アカデミー賞でも主演男優賞・脚本賞の2冠を取ってる作品なので、「普通に鉄板だろな」というイメージで観たのですが、非常に重い問いを突きつけてくる映画でした。

普通の映画だったら、主人公が何らかの葛藤を抱えていても、「なんとかそれを乗り越えて成長する」っていう着地になると思うんです。でも本作の場合は「乗り越えられないレベルの苦しみ」っていうものを、「それはそれで存在するよね」っていう風に肯定してくれる様な作りになってるんですよね。

「完全に乗り越える事なんて望めない過去」って、人生を振り返ると、僕らの実人生にも実際あると思うんです。精算不能な苦悩があっても、他者との関わりの中で、人生を少しだけ肯定しても良いと思える瞬間は必ず訪れる。そういうささやかな瞬間が人生の拠り所になるんじゃ無いかっていう、優しい視点が印象的な作品でした。

 

2位『ありがとう、トニ・エルドマン』

監督:マーレン・アーデ

 

<あらすじ>

ルーマニアのコンサルティング会社で働く、キャリアウーマンのイネス。

故郷のドイツに帰省して家族との時間を過ごしている時も、考えるのは仕事のことばかり。彼女の父親ヴィンフリートは、仕事一辺倒の彼女を心配して、いてもたってもいられずルーマニアに向かい、イネスの職場や友人との食事の場に現れる。

神出鬼没に登場しては、彼なりのユーモアで彼女を和ませようとする父と、彼に翻弄される娘の数日間を描く。

 

「娘の職場に現れては、オヤジギャグを連発する父親の常軌を逸した異常行動の話」っていうと本当最悪なんですが、これが色んなテーマ性を内包した大傑作でした。

基本的には「子離れできない父親と、彼に苛立ちつつも、見放すことができない娘」という両者の気まずさを中心に置きながら、コミカルなムードで展開しています。

でも同時に、イネスの職場での場面から見えてくるのは、資本主義社会の冷酷さや貧困問題みたいな大きな話から、セクハラ・モラハラ問題といった話まで、彼らの周囲に横たわる、もっと言えば現実社会の問題も並行して浮き彫りにする視点が印象的でした。

しかも、「仕事一筋だけど、どこか幸せには見えない」という父親から見た娘像が、「合理的な資本主義社会のはずなのに、健全性を欠いた様に見える現実の社会情勢」みたいに、物語的に符合する構造になってたりするのが見事だなあと思いました。

とはいえ小難しい作品でもなんでもなくて、親と会っている時の、形容しがたい気まずさとか、でも別れる時はやっぱりちょっとセンチになるあの感じとか。そういう誰でも共感できるもどかしさを、映画を通じて再体験させてくれる様な一本でした。

 

3位『ポルト』

監督ゲイブ・クリンガー

 

<あらすじ>

ポルトガル第二の都市「ポルト」で暮らす、アメリカ人青年ジェイクと、留学生のフランス人女性マティ。他人同士の二人は、以前から街中で視線を交わす中で、互いの事を何となく認識していた。

ある夜、カフェでマティを見かけるジェイク。ジェイクに気づくマティ。そこから始まる二人の一夜だけの関係は、既に過ぎ去った「過去」の話だった。

それから数年。全く別の人生を送る二人の現在と、「あの日」の過去の思い出が、互いに響き合いながら交錯していく。

 

公開規模も小さくて、地味にも見える作品なんですが、「他者と出会うこと、別れること」についての本質を、時にロマンチックに、時に残酷に描いた一作でした。

男性側のジェイクは、いまも「あの日」の出会いを忘れることが出来ずに、彼女の影を追い求めるように、ポルトでその日暮らしの生活を続けています。一方マティは、彼とは真逆で、一見幸せそうな現在を過ごしている。

そういう二人の現在の様子と、出会ったばかりの過去の描写が並行して語られていくんですが、この映画で特徴的なのは、現在の時制はわりと荒い画質で、過去の方はクリアな画質で表現されている所です。

その事によって、観てるうちに、「二人にとっては過去の方が鮮明に見えている」っていう感覚を抱かせる作りになってるんですね。

一見対象的にも見える人生を送ってる二人ですが、互いに「あの日」をどこかしら引きずって生きている。

だから、特にジェイク側からしたら悲劇にも思えるあの日も、その後の二人にとっての現在と地続きの、決して否定しえない瞬間なんだっていう様な、そういう感慨に浸らせてくれる作品でした。

特にグッと来た作中の台詞。

「得ることも、失うことも、すてきなことよ。」

 

4位『パターソン』

監督:ジム・ジャームッシュ

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ニュージャージー州パターソン市で暮らす、バス運転手のパターソン。彼が朝起きて、仕事をして、犬の散歩をして、バーに通って、奥さんと一緒に眠りにつく。そういう一見定例的な生活が一週間ひたすら続くだけの作品なんですが、忘れがたい感慨をもたらしてくれました。

基本、本当にほぼ同じ様な日常が繰り返されるんですが、彼が趣味で詩作に励んでいるっていうのが、作品テーマと密接にリンクしています。

彼は何をしている時でも、周囲の世界を詩的に捉えて、自分なりの言葉として紡ごうとしています。それによって、「一見普通の生活でも、捉え方次第で劇的に見えてくる」っていう感じがより強調される作りになってるんですよね。

普通のエンターテイメント映画みたいな派手な展開は、この作品にも、僕らの実人生には起こらないけど、主観で見れば毎日が詩的でドラマチック。そういう余韻と共に劇場を出たら、いつもの景色もどこか変わって見える感じがしました。

 

5位『わたしは、ダニエル・ブレイク』

監督:ケン・ローチ

日本でも生活保護のニュースなんかを見ていると、論調が「保護の正当性を審査する側」の視点が多い気がするんですが、これは「審査される側」から見た、世界の不条理性を描いた作品です。

主人公のダニエル・ブレイクは、病気のため医師から仕事を止められ、国から援助を受けるために役所に向かいます。そこから始まるのは、窓口をたらいまわしにされるとか、ネットで申請してくださいとか、「役所における杓子定規対応あるある」的展開です。

誰もが既視感あるような場面の連続に基本笑ってしまうんですけど、それが段々「えっと…そろそろ笑えないんですけど…」っていう風に、次第に感情が怒りとか怖さの方に変質していく様な展開になっていきます。

立場が弱い人が国から援助を受けるには、「助けるに値するかの根拠」が事細かに求められて審査され、ものすごい遠回りをさせられた挙句、ドツボにはまる。そういう、この世界を取り巻く怖い側面が容赦なく描かれます。

だけど、国と個人の関係じゃなくて、個と個レベルでは、他人に手を差し伸べるための理由や根拠なんて必要なく、シンプルに助け合って行きていけるはずなのに、、、っていう、ケン・ローチ監督の嘆きっていうか、怒りに近い感情が伝わってくる一作でした。

 

6位『KUBO クボ 二本の弦の秘密』

監督:トラビス・ナイト

海外の制作チームが、彼らなりの「日本愛」を込めて作ってくれた作品なのですが、「そうそう、日本ってこうなんだよな」的な優越感に耽溺する映画ではなく、「忘れかけていた日本性」みたいなものを気づかせてくれる作品でした。

この映画が伝えるメッセージっていうのは、「大事な人がいなくなっても、その人の事を思い出したり、語り継いでいくことで、その人は生き続ける」っていうもので、それ自体はありがちとも言えるかもしれません。

だけど、そういうテーマ性が、台詞だけじゃなくて、ストーリー上の描写や演出、もっというと、ストップモーションアニメっていう技術の採用要因っていう所にまで宿ってる、あらゆる意味での到達点が超絶高い一作でした。

諸行無常って言葉がある様に、形ある物はいつかは無くなる。でもだからこそ、そのはかなさにこそ価値を見い出したり、無くなってもなお残る物語性を大事にする様な。それが、大きな話では日本らしさでもあり、もっとずっと小さな話では、人生におけるあらゆる瞬間も、不可逆でつかの間だからこそ大事なんだっていう、普遍的なテーマな気がしました。

 

7位『メッセージ』

監督:ドゥニ・ビルヌーブ

「超越的な存在との遭遇」っていうSF作品の定番的な皮を被りながら、実は全然人間的な、「生とか愛の完全肯定」がテーマの人間ドラマでした。

作中の一番大きな疑問である、「果たして彼らは何のためにここに来たのか?」とか、「どこから来て、どこに向かうのか?」みたいな問いがあるんですけど、これが果たして誰に向けられたものなのかっていう視点で観ると、本当に味わい深い一本だと思います。

原作が「あなたの人生の物語」という小説で、映画の邦題が「メッセージ」なんですけど、どっちもなるほどなあと思わされる、良いタイトルだと思いました。

本作と「ポルト」は、映画としてのジャンルや規模も何もかも違うけど、観終わった後の感慨は非常に近い2本の様な気がしました。

 

8位『ナイスガイズ!』

監督:シェーン・ブラック

大人になると、子供の頃とは映画の見方が変わったりして、「昔は良さが分からなかった映画が、今は分かる」みたいな事ってあると思うんですけど、この映画に関しては、子供の頃の自分が観ても、今の自分が観ても、多分80歳の自分が観ても最高って思える作品だと感じました。

ダメ男達の再起をかけたバディムービーであり、父娘関係の修復モノでもあり、そして作中投入される不謹慎ギャグとテンポの良いアクション、徐々にパズルがはまっていくミステリー要素。そういう映画における面白い要素が濃密に詰まった、サービス満載の傑作でした。

確実に今年一番爆笑してしまった作品でした。

 

9位『20センチュリー・ウーマン』

監督:マイク・ミルズ

作中の登場人物達が考えるのは、母親の事、息子の事、女性の事、世界の事、人生の事。そんな風に、世の中って基本「理解できない事」ばっかですよね。

でも「理解できるか否か」より、「理解しようとする姿勢」そのものの大事さを説いた話だと思いました。だから、監督が自身の体験をベースにこの作品を作ったっていう事自体が、亡き母親を理解するためのアプローチにもなってるのかなあと。

作中の時代設定になってる、1979年当時の出来事やカルチャーをスクラップしていく様なマクロ視点と、登場人物たちの身の回りに起こる出来事を映し出すミクロ視点が交差していく話運びが、「今の自分達との共通性もあるけど、でも戻らない、過ぎ去った過去の話」感というか、常にどこかセンチな気分に浸らせてくれる作品でした。

台詞も印象的なのが多くてねえ・・・

「辛い事も、時間が経てばいずれ薄れる。でも、また辛くなるけど。」

 

10位『ビジランテ』

監督:入江悠

日本の地方都市が持つ、特有の空気感というか、呪縛性みたいなモノを容赦なくえぐり出した一作でした。

「ビジランテ」っていうタイトルは、良くヒーロー映画などでで使われる「自警団」的な意味。つまり「法とかじゃなく、自分の倫理上守るべきもの」とも言えます。

そして、主人公の三兄弟にとって、自分達にとっての呪いでもある地方都市にある特殊な磁場みたいなものが、同時に、目を背けられないもの、「守るべきもの」でもあるっていう、二律背反な構造が見事だと思いました。

監督の入江悠さんの地元である埼玉県深谷市が舞台になっているので、監督自身が抱く「地元観」が、そういう物語的構造にも反映されてるのかなと感じました。

 

【主演女優賞

サンドラ・フラーさん(『ありがとう、トニ・エルドマン』)

【主演男優賞

ケイシー・アフレックさん(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』)

【助演女優賞

エル・ファニングさん(『パーティで女の子に話しかけるには』)

【助演男優賞

般若さん(『ビジランテ』)

【ベスト子役賞

『わたしたち』のキャストみんな

【ベストアクション賞

『アトミック・ブロンド』

【ラストの切れ味賞】

『ノクターナル・アニマルズ』

 

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