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2016年に劇場公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。出来るだけネタバレは避けています。 あと、下の方に個人的主演男優・女優、助演男優・女優賞なんかも。

 

1位『この世界の片隅に』

監督:片渕須直

 

こうの史代さんの同名コミックのアニメ映画化。

昭和20年の広島・呉に暮らす「すずさん」とその周囲の日常を描いた一作。原作は未読だったんですけど、結局4回観てしまいました。

 

その時期の広島の話っていうと、当然「アレ」の件が大きな題材になる反戦映画になるんだろなって思ってたんですけど、それがとても不思議な形で裏切られました。

基本的には「アレ」より前の時勢からスタートして、そこで描かれるのはすごく普通の日常描写なんです。そこにこういう人たちがいて、こういう暮らしがあって、という事がすずさんの主観で映し出されていくスタイル。

その描写の全てが、異常なぐらいのこだわりが反映された歴史考証をベースにしつつ、声優さんの演技の力もあって、「アニメなのに究極の実在感」を体言してる所がまず素晴らしかったです。その実在感があるからこそ、今と全く違う時代を描いてるのに感情移入できるんですよね。

 

この映画の特徴的な部分は、「戦争」っていう、観衆からしたら特異な状況が「いつの間にか普通の日常としてそこにある」っていう感覚を体感させられる部分だと思いました。

作中の台詞でもそういう表現があるんですけど、「非日常だと思っていた事がいつのまにか日常になる」っていう感覚。それって現代にも全然置き換え可能なシチュエーションですよね。

例えば、作中何度も鳴り響く空襲警報。我々からすると「非日常」なモノだからとても恐ろしいモチーフだけど、それが「日常」になってる彼らからすると、「警報もう飽きた〜」っていう風な台詞として扱われたりするんですよ。

 

でも、こういう感覚って3.11後の世界を経験してる僕らからすると、ちょっと分かる感じするじゃないですか。それこそ、異常な頻度で流れる緊急地震速報が、「普通の事」みたいになってた時期ありましたよね。

だから、そういう「いつのまにか異様なものが日常に浸食して溶け込む世界」をごく自然に描き出す語り口が、ある種自分たちの生きる現代とも地続きなんだっていう事を想起せざるを得ない効果も生んでる訳なんですよ。

 

その結果、反戦映画的な直接的メッセージはほとんど込められてないのに、後味としては「戦争=忌み嫌うものであるべき」っていう感覚をしっかり持たせてくれる所が素晴らしいと思いました。

 

こういう風に、物語から読み取れるメッセージ性があまりに豊かなので、色んな事を考えてしまう映画ではあるんですけど、基本笑える場面満載で、誰が観ても面白い作品になってる所もまた最高なんです。

 

生きてると、事の大小問わず色んな苦難ももちろんありますけど、「そこにあなたがいる事」が何より価値ある事なんだっていうことを伝えてくれるような、最高の人生賛歌だと思いました。

 

2位『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』

監督:リチャード・リンクレイター

 

一言で言えば、「大学入学したての体育会系の筋肉バカチームがクラブ行ってナンパしたり飲みまくる話」です。

登場人物ほとんど馬鹿で下品で救い様無いんですけど、そんな話から「人生」についての感慨を受けざるを得ない大傑作でした。

 

人生を振り返った時に、誰しも「あれが人生最高の瞬間」っていう時期ってあると思うんですよ。 高校でも大学でもいつでも良いですけど、何かのタイミングで「未来がここから開かれている感」みたいなものを感じた時期というか。

要はそういう最高の瞬間の多幸感を全力で描き出してる一作です。

 

人って、現状に対して何らかの不満や苦悩を感じてしまいがちですけど、だからこそ「過ぎ去ったもう戻らない時間」に想いを馳せて、人生の移ろいを実感してしまうものですよね。

だから、見るもの全てが新しくて、自分の人生が明らかに右肩上がりになってる様に感じる時期が愛しく思える訳ですよ。

 

だけどそういう瞬間って、あくまで刹那的で、長くは続かないものじゃないですか。 だからこそ、彼らにとっては最高の場面であればあるほど、なぜだか切ない感慨を感じてしまうんですよね。

そのあたり、リチャード・リンクレイター監督作品に共通する人生観というか、時間感覚が折り込まれてるのが素晴らしいです。

 

基本楽しい場面の連続だけど、その中にも実は、自分がまだ「何者か未満」である事の恐れや不安も紛れ込んでて、そういう要素が映画の重層性をグッと高めてる気がします。

 

最高に馬鹿で、最高に笑える映画なのに、作中出てくるこんな台詞で涙腺完全崩壊してしまいました。

 

「無益に見える苦しみにも価値はある。物事が意味を持つかどうかは自分次第」

 

3位『シング・ストリート 未来へのうた』

監督:ジョン・カーニー

 

「はじまりのうた」のジョン・カーニー監督最新作。

80年代のアイルランド・ダブリンで暮らす主人公コナーが、退屈な生活の中で「憧れの女の子」と「音楽」に希望を見い出して、バンド活動に励んでいく日々を描いた青春ドラマ。

 

主人公は、最初「好きな子を振り向かせるため」にバンドを結成します。

その時点では、「女の子」が、退屈な日常から脱却するための救いになっています。でも仲間と音楽を創っていくうちに、「創作活動」そのものが救いになっていく、生きがいになっていく展開に共感させられました。

 

恋愛も思った様に上手く行かないし、当時のダブリンは不況真っ只中で家庭環境も最悪。

おまけに学校でも抑圧的な教師や暴力的な同級生がいて、主人公の周囲の世界は正直最悪なんですよね。

でもだからこそ、そういう状況にさらされた自分の想いを歌詞に乗せた音楽をつくっていく事で、「ここではないどこか」とか「憧れる存在」への繋がりを見出していく過程が素晴らしいんですよ。

 

何者でもない自分が何かを表現する事って恥ずかしいし、勇気がいる事ですよね。でも、特定のアーティストの真似をしたり影響を受けていく中で、「なんか分かんないけど意外と出来たかも」っていう実感を得て、何となく人生にドライブがかかっていきそうな方向にハンドルを切っていく。

それって創作活動の根源的な喜びですよね。

そういう風に、自分なりに工夫して何かを創作する事の衝動を瑞々しく描いた傑作だと思います。

 

4位『裸足の季節』 監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン

 

トルコの閉鎖的・抑圧された習慣の中で、それでも何とか自分で人生を選択して生きようとする5人の姉妹の姿を描いた一作。

 

この映画を観るまでトルコっていう国の内情を気にした事が無かったんですけど、ものすごい封建的な社会が根付いてて、女性が「自分でパートナーを選んだり、自由な人生を選び取る」みたいな事が難しい国なんですね。

親が決めた結婚相手と結婚する事が基本原則になっている社会。 で、それらを守らないと命の危険すら脅かされる様な、死と隣り合わせの日常がソコにあるんですね。

 

そんな風に、運命に抗う事すら命がけの世界で、自分たちを抑制するものに中指を立てて刃向かっていく5人の姉妹に、魂を揺さぶられる様な感覚を味わいました。

 

「抑圧された環境から自由を求めて逃げだそうとする」って、テーマ的に去年の「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」と重なる様な印象を受けました。ただ、あっちは「現実世界をモチーフにしたディストピア世界」だから少し安心して観ることが出来るんですけど、こっちは現実世界の話なので、より怖さ、恐ろしさが前に来る様な感じでした。

 

閉ざされた毎日にさらされても、そこに埋没して飲み込まれるんじゃなくて、どんな形であれ反抗して立ち向かっていく姿勢にとても勇気づけられる作品です。

 

 5位『コップ・カー』

監督:ジョン・ワッツ
家出少年2人が、偶然見つけて乗り込んだ無人のパトカー。
車内には鍵が残されていて、無邪気な2人は勢いに任せて車を盗んで走り出す。
そのパトカーは、実は恐ろしい悪徳警官のモノだった・・
「コップ・カー」は、そんな風に「家出少年の無邪気な冒険」と、「悪徳警官のクライムサスペンス」が平行して描かれるんですけど、その両者の場面の緊張感のギャップがまずは超楽しい映画です。
  ただし映画のトーンが中盤ぐらいから徐々に変わって、「結果と責任」的なテーマが浮かび上がってくるんです。 無邪気な行動には何かしらの結果が待ち受けていて、その責任を果たす義務も当然生まれてくる。
そういう風に、無邪気な経験を通じて、少年が成長していく、まっとうなジュブナイル映画としても最高の一作だと思います。
監督の新鋭ジョン・ワッツさんは、マーベルの来年公開「スパイダーマン ホームカミング」の監督にも抜擢されているので、そちらも期待大ですね。

 

6位『デッド・プール』

監督:ティム・ミラー

 

目下絶好調のマーベルですが、その中でも異端のスーパーヒーロー「デッド・プール」がとてつもない傑作でした。

今までのマーベルのシリーズからしたら明らかに型破りな暴力描写や下ネタ要素も満載な作品です。

 

何より、主人公のウェイド・ウィルソンことデッドプールが、「自分がコミックのキャラである事を知っている」っていうメタ視点が一番の特徴ですね。

ただ、もちろん一つ一つのメタ的要素や、不謹慎ギャグが最高に面白いっていうのはありますけど、何よりベースとなっている話の本筋がとても真っ当で誠実な「悲恋モノ」の手順を踏んでるんですよね。

 

孤独で悲惨な人生を送る主人公。

その救われない魂を唯一共有できる、自分と近い境遇の女性との出会い。

幸せな時間もつかの間、主人公は不治の病であることを告げられる。

主人公は自分の運命を受け入れ、彼女の事を思うが故に彼女の前から姿を消す・・・

 

コレがデッドプールのあらすじな訳ですよ。   ただそういう悲劇的な瞬間でも、ウェイドは冗談や不謹慎ギャグを四六時中くっちゃべってるから、過度に悲惨に見えない作りが巧みなんですよね。

そしてその「冗談」っていうのも、「自分の悲劇性を自虐化する」っていう役割を果たしてる訳で、悲惨な現状に対してのささやかな抵抗にもなってるんですよ。

 

そしてウェイドがヒーロー的能力を身につけてから戦うための原動力っていうのも、「好きな女性にもう一度出会うため」っていう所で一貫してるんですよね。

ヒーロー映画が多様化してきて、「何のために戦うのか」「そもそも正義とは」みたいなテーマに帰結していく流れの中で、「なんで戦うか?好きな子のため!」っていう単純明快な答えも抜けが良い快作だと思います。

 

 

7位『オデッセイ』

監督:リドリー・スコット

 

リドリー・スコット監督によるSF作品。火星にひとり取り残された男が、いかにその環境の中で「人間らしく」生き抜くかを描いた一作。

 

「何もない状況で人間的工夫でサバイブしていく」っていう設定の時点でまず超楽しいんです。それも、無人島とかじゃなくて「火星」っていう圧倒的絶望感のある場所な訳で。 この無理ゲー感をどの様に克服していくのか?っていう状況自体が、興味を引きつけますよね。

 

そして映画の語り口が、とにかくポップかつ前向きで、ひたすら明るいんですよ。

「宇宙空間に取り残される」って、近年でいうと「ゼロ・グラビティ」とか「インターステラー」風ににシリアスな方向にも振れるのに、完全根アカ路線っていうのがこの映画の一番の魅力だと思います。

 

観終わった後の多幸感がとても強くて、人生ってトライアンドエラーの連続だけど、自分なりのやり方でチャレンジしていけば何とかなるじゃんっていう後味なんですよ。

 

火星での過酷な生活を見せられる事で、「今自分たちが住んでいる地球」という環境を相対的に考えさせられる点も素晴らしかったです。

 

 

 

8位『何者』

監督:三浦大輔

 

5人の若者の就職活動と、その過程の中で浮かび上がる様々な感情をリアルに描き出した青春映画。

 

就活の時期って、ざっくり言えば「自分が何者なのかを探っていく日々」ですよね。

「自己分析」なるもので「自分が何者か何となく見えてきた」というかりそめの自信を得るんですけど、企業からは「不合格」の烙印を押され続ける日々。

その結果、「結局自分は何者にもなれないのか・・?」っていう圧倒的現実に押しつぶされそうになる時期なんですよね。

 

そんな「何者未満」である自分を正当化するために、例えば「就活の進捗状況をSNSで公開する」みたいな人の事をちょっと冷めた視点で分析して、ある種自分が優位に立ったように思うことで自我を保つ・・とか。

そういう経験って、ないですか?僕は無かったとは言いきれないです。笑

 

そんな風に、全編逃げ出したくなるぐらいの「痛い」場面の連続。

で、登場人物が抱く色んな感情とか行為っていうものに対して、「うわキツい」と思いつつも、「あれ、でも自分にも似たような覚えあるよな・・・」って事にも気付かされるので、「作中で登場する痛い場面」がそのまま自分の写し鏡になる様な構成が、意地悪でもあり最高でした。

 

要は、「嫌いと思ったり、内心見下げてる他者は、実は自分とそっくり」って事ってあると思うんです。

そういう状況をリアルに体感させられるような映画でした。

 

でも、同時にそれと全く逆のパターンの救いも用意されてるのがこの作品の素晴らしい所でした。

「自己分析の結果の自分の魅力」と、「他人から見た自分の魅力」って全然違うと思うんですよね。

だから、前者の方の自分が企業に否定されても、それは「その人自体が否定された訳ではない」っていうメッセージ性もちゃんと内包してるんですよね。

 

先は全く見えないし希望も失いそうになるけど、それでも悪あがきし続ける事。それが就活だし、人生なんだと教えてくれた一作でした。

 

 

9位『ブルーに生まれついて』

監督:ロバート・バドロー

 

1950年代活躍した、白人のジャズ演奏者チェット・ベイカーの伝記映画。

かと思ったら、伝記っていうかほとんどが映画オリジナルの要素で、どちらかというと彼の生き方を抽象化して再解釈を加えた映画です。

 

ヘロイン中毒に苦しみ、アーティストとしての武器も失ってしまったチェット・ベイカー。

 

彼がいかに復活していくかを描いた一作なんですが、「ヘロイン中毒のアーティスト」って、普通は感情移入しづらいキャラクターですよね。そんな主人公が、きちんと血が通った人間に見える様に演じているイーサン・ホークさんの演技がほんとに素晴らしいです。

 

人としてアウトな選択をしてしまってるし、問題が多い人物である事は確かなんですね。

だけど、自分が愛したモノには愚直なまでに向き合おうとする彼の姿勢に、いつの間にか愛着を抱いてしまっている事に気づかされました。

 

これは「復活の話」とも言えますが、ある視点で見れば「終わりの始まり」の話なんですよ。

作中のある選択が、「全てを得た瞬間」でもあるし、「全てを失った瞬間」でもある。

 

そういう、相反するけど表裏一体のその瞬間。

 

その瞬間のチェット・ベイカー=イーサン・ホークさんの表情、そしてその後に続く一言の切れ味。

 

本当に鳥肌が立ちました。

 

 

10位『イット・フォローズ』

監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル

 

新鋭デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督による、ある行為が起点となって憑いてくる「ソレ」から逃げる若者たちを描いた新感覚スリラー。

 

ネタバレになるんで内容に関して言及しづらいのですが、一言で言うと「リア充爆発ババ抜き」です。

「スラッシャー映画の定番」を軸にしつつ、そこに斬新な新設定・アイデアを盛り込むことでフレッシュな怖さ表現を見事に成立させてる一作。

 

ホラー映画には思えないぐらい、全編通じて異常なぐらいこだわって構築された綺麗な画面のルックも最高でした。

特に印象的なのは、「広い画面の中央に人物が一人だけいて、背景は完全に左右非対称」的な整理された構図ですね。それが、ただ映像として美しいだけじゃなくて、その制御された画面の端に映りこむ「憑いてくる何か」が強調される様な、心霊写真的怖さを醸し出す役割を果たしてる所も素晴らしかったです。

 

アイデア満載で終始不思議な怖さを味わわせてくれるのに、同時にほろ苦い青春映画としての悲しさや切なさも詰まった傑作だと思いました。

 

【主演女優賞

 

のんさん(この世界の片隅に)

 

【主演男優賞

 

イーサン・ホークさん(ブルーに生まれついて)

 

【助演女優賞

 

バルバラ・レニーさん(マジカル・ガール)

 

【助演男優賞

 

ヒュー・グラントさん(マダム・フローレンス!夢見るふたり)

 

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