2015年に劇場公開された映画の個人的ベスト10とその感想です。出来るだけネタバレは避けています。

あと、下の方に「誰が観ても面白い系7本」と「ベスト10には入れてないけど最高系9本」なんかも。

 

1位『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

監督:ジョージ・ミラー

 

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ジョージ・ミラー監督によるカルト的アクション大作「マッドマックス」の30年ぶりの新作。

この映画は特筆すべき要素が多すぎて、どのレイヤーから褒めたら良いのか分からないのですよね。だからそういう色んな感情の最大公約数として「ヤバイ」って言うしかない感じです。

 

公開直後に色んな所で、褒め言葉として「最高のバカ映画」と評されてました。個人的には、それは5%正しくて95%間違いだと思います。

 

確かに、映画の表層的な部分で見えるのは、超アクションの連続。それは勿論「やばい!!!」ってアガるんですけど、実はその背後には緻密に練り上げられた世界観と、今日的に超正しいメッセージ性が遍在してる訳で。それこそ、子供に読み聞かせてもおかしくないってぐらい、「正しく生きる事」についての話ですよね。過酷な境遇を経て「人じゃなくなった者達」が、次第に人間に回帰していく、「人が人らしく生きる事」についての話な訳ですよ。

 

しかも、そういうメッセージ性が直接的な説明じゃなく「アクション」を通じて示されるって所が凄いんですよね。

ほとんど会話なしのミニマムな台詞量なのに、アクションの中で示される情報量はマックスっていうバランス。 特に、緊迫したアクションの合間に何度も出てくる「誰かが誰かに何かを渡す」っていう場面が象徴的ですね。

そういう行動一つ一つによって登場人物の変化とか、メッセージ性そのものを表現するっていう映画的に的確な語り口が素晴らしいと思います。

 

そんな訳で、マッドマックス 怒りのデス・ロードは、「最高のバカ映画」ではなく「バカ映画のフリをした、最大級に知的で品の良い映画」だと思います。文句なしに今年ベストです。

 

2位『恋人たち』

監督:橋口亮輔

橋口亮輔監督の「ぐるりのこと。」以来7年ぶりの長編新作。様々な事情や息苦しさを抱えて今の日本で生きる、3人の男女の日常を描いた群像劇。

 

まず何が凄いって、徹底した人生ハードモード描写ですよね。「自分達の周りにもあり得る範疇の、キツイ日常描写」というか。なおかつキャストの方々の実在感ある演技も相まって、文字どおり痛い場面の連続でした。

 

主要キャラクター3人が各々抱えてる事情の種類とかレベルは、実は全然異なります。だから客観視点で観る観客としては、普通は「この人が一番過酷で、この人は一番マシ」とか相対的に見えてもおかしくないハズなんですよ。でも前述の圧倒的実在感ゆえに、3人それぞれに等価に感情移入しちゃうんですよね。

実際の僕らの人生でも、他人から見たら分からないけど、自分の主観的には「世の中で自分だけが不幸せ」みたいに感じちゃう瞬間てたまにありますよね。この映画のリアリティって、主人公達のそういう内面に一致してしまうぐらいの次元だと思います。

 

一方で、この映画で素晴らしいのは、ハードモード描写の中に紛れ込んでるユーモラスな場面の数々ですよね。

そこがこの映画と、というか人生のそのものの本質でもあると思いました。

 

僕らが生きてる日常には、「国」からの救いも、映画みたいな「ご都合主義的救済」も存在しない事がほとんどな訳で。でも、周りの人のなにげない言葉でふと笑ったり、それこそ会話の一つ一つが「気づいたら」救いになってる事ってありますよね。

 

映画の中でも、彼らの苦難は完全には解決しません。でも、過去を振り返った時に、あの時のアレによってちょっと救われたのかもな…って事ってあるじゃないですか。

 

そんな風に、人生を点じゃなくて線で見た時に、救済になってるモノ。映画の中で語られるそれって、「笑い」とか「対話」「食事」とか、すごいシンプルで普遍的な事ばっかです。

 

そんな小さな救済の累積が生きる上での支えになるっていう、超優しい落としどころの映画だと思います。

 

3位『君が生きた証』

監督:ウィリアム・H・メイシー

 

何かの映画を観にいって、予告でコレ流れてたんですよ。 すごい好きな映画「あの頃、ペニー・レインと」のビリー・クラダップ主演で、しかもそれと同じ音楽映画だし、ぐらいの感覚で観に行きました。実際観終わって、エンドロール流れてる間、今年一番の号泣ですよね。なんとなくで観たのを後悔するぐらいの傑作でした。

 

主人公のサムは、大学で起きた銃乱射事件で突如息子を亡くす。失意の中で、彼は音楽好きだった息子が遺したデモテープを見つけ、その未発表曲を歌い継いでいく・・・ っていうのが話の大筋です。

話の概要だけ聞くと、「なんとなく”こんな感じ”のいい映画なんだろな」みたいな大枠の予測出来るじゃないですか。でも実際は、それが予想しない形で裏切られました。

 

具体的には、映画の途中で「ある展開」が訪れます。

そこに心底衝撃を受けるんですけど、それが単にビックリさせるために用意されてる訳じゃないんですよね。

 

この映画はノンフィクションじゃないですけど、銃乱射事件って実際に起こってる悲劇じゃないですか。ある日突然、そういう事件の当事者っていう立場になった人達って、僕らが想像し得ない感情にさらされると思うんです。

 

そんな時に彼らが感じる痛みとか喪失感を、観客の僕らに完全に追体験させるために「ある展開」が用意されてるんですよね。 僕らが「その展開から受ける感情」と、登場人物が「当事者になった時に受けたであろう感情」が、完全にイコールになるというか。

 

現実に起こる悲しい出来事には明確な原因も予兆もなくて、突如訪れた断絶の中で生きなきゃいけない人たちが沢山いる訳で。そういう人達に盲目的に共感しろって言ってる話じゃなくて、「そういう状況に陥った時の感情の流れそのもの」を伝えたいんじゃないかと思いました。

あともちろん「音楽」が、物語上のすごい重要な要素になってます。号泣しながらiPhoneでサントラ購入してしまいました。俳優のウィリアム・H・メイシーさんの初監督作って所も凄まじいですね。

 

4位『スター・ウォーズ エピソード7  フォースの覚醒』

監督:J・J・エイブラムス

 

正直コレ1位とかでも全然良いんですけど、さすがに「過去作を観てる前提」の魅力もすごい多いだけに、一応4位としておきました。

過去作のファンに対するサービスも大量投入しつつ、なおかつ新シリーズならではのキャラクターとか新しい展開が同列で前面に出てくるっていう、素晴らしいのバランスの一本だと思いました。リアルタイム世代じゃない僕らにも「スター・ウォーズの新作を劇場で観られる喜び」を体験させてくれた作品です。ネタバレが怖すぎて何も書けません。

 

5位『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』

監督:スティーヴン・ナイト

 

登場人物は一人。高速道路を走る車の中で交わされる、電話での会話だけで成立してる変わった一作です。

 

上映時間も、劇中の時間経過と同じ86分。ほとんど一人芝居っていう構造なのに全く飽きさせないのは、主演のトム・ハーディの完璧な演技と、細切れな会話の中から背景が徐々に明らかになっていく上質な脚本力に起因してますね。

 

引き返す事ができない、前に進む事しかできない「高速道路」っていうモチーフも話の推進力の維持に役立ってるし、それが「人生そのもの」の比喩としても機能してると思いました。

 

「引き返せない過去の因果」に対して愚直に折り合いとケジメをつけようとする、強くて、弱い男の86分。

 

6位『ドローン・オブ・ウォー』

監督:アンドリュー・ニコル

 

アンドリュー・ニコル監督と、イーサン・ホークの近未来SF傑作「ガタカ」のコンビの新作。米軍の無人爆撃機ドローンの実態と、その操縦士の苦悩を描いた一作。

 

戦争体験を描いた映画って沢山あるけど、この映画だと実際の戦場が1場面たりとも映し出されないんですよね。普通の戦争映画で描かれる悲惨さとは違って、クーラーの効いた部屋で、ノーリスクで狙撃できる状況。

つまり、何の切迫感も無しに人を殺めなければいけない訳で。彼が住むラスベガス郊外の「日常」と「疑似的な戦場」の二重生活の中で、主人公が精神的に蝕まれていく様子が生々しく描かれます。

 

観衆の僕らも、実際の戦場ではなく「画面越しの狙撃映像」だけをある種ゲーム的な視点で見てるから、事の異常性に麻痺してくるんですよね。 でも、途中何度か挿入される「ラスベガスの街並み」の演出によって、現実に引き戻される様な感覚になりました。

そこは戦場とは対照的な場所なハズなのに、「ドローンで撮影したかの様な空撮」のショットになるんですよ。それって、「米軍が無人機で遠隔から爆撃してる現状」に対して、「遠隔から爆撃されるかもしれない未来」を想起させる効果すらあるんですよね。つまり、新たな武器を選べば敵も同じ武器を使うっていう、復讐の連鎖を予見させる演出だと思いました。

 

ストーリー的にも演出的にも、今までと全く違うアプローチで「今の戦争」を描いた傑作です。

 

7位『バードマン あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡』

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

 

ティム・バートン版の「バットマン」の主演マイケル・キートンが、「映画”バードマン”で脚光を浴びた今は落ち目のスターが、再起をかけてブロードウェイの舞台にチャレンジする」っていう皮肉なキャスティングがまず1番印象的ですよね。

 

他にもエドワード・ノートン、エマ・ストーンとか、アメコミ原作映画とゆかりのあるキャストが揃えられてます。2時間ひたすら1ショットの長回しに見える撮影・編集と相まって、まるでドキュメントを観てる様な錯覚に陥りました。でも、同時に「バードマン」の能力を表す超現実的な場面も同居してるので、ちょっと何を観てるか分からない、不思議な映画体験でした。

 

主人公は、「認められたい(かつてそうだった様に)」っていう承認欲求が肥大化した男なんですけど、ハリウッドスターとして大衆に認められてた時も、実は別に幸せじゃなかったっていう事も頭では分かってるんですよ。富や名声を得たからって、充足感は得られない訳で。

 

だからこそ、映画じゃなくて「舞台」っていう新しい場所で再起をかけようとするんですけど、気づいたら結局は大衆的な人気とか、他人からどう見られるかみたいな事しか頭にない、つまり「昔の自分が持っていた物」に未練を抱いてしまうっていう矛盾を抱えてます。

 

でもこういう、「誰かに認めてもらう事=幸せじゃないと分かってるけど…」みたいな葛藤って、人間が普遍的に抱える悩みですよね。それこそSNSとかの「いいね!」数で得られる喜びって虚しいけど、それにすがってしまう…みたいなのといわば同じ感覚な訳で。主人公の物語が他人事に見えないからこそ、滑稽な場面の連続でも冷笑するだけでいられなくなってくる感じ。

 

一見「大衆受けするハリウッド映画」とか「SNS」とかを批判的に描いてる様にも見えるんですけど、その全てを否定しない所に好感を抱きました。それらが内包している「負」の部分については確かに皮肉に描いてますけど、それらが人々にもたらす「正」の部分もきちんと評価する様な、批評的な視点が印象的でした。「無知がもたらす予期せぬ奇跡」っていう副題がそれを象徴してますね。

 

8位『マジック・イン・ムーンライト』

監督:ウディ・アレン

 

ウディ・アレン監督の最新作にして今までにないぐらい真っ当な恋愛映画。

でも勿論皮肉効きまくってて「らしさ」は全開。「恋愛」と「ウディ・アレン的世界観」の2つが、「マジック」っていう題材と密接にリンクしてる所が最高だと思いました。

主人公がいつも以上にウディ・アレンの投影になってるからこそ、ある台詞で「え、超皮肉屋で現実主義者なのにこんな事考えてたの。。?!」って感じてしまう所にグッときました。

 

9位『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』

監督:スチュアート・マードック

 

パッと見のルックは超オシャレでポップな青春映画ですけど、同時に「恋人たち」と同じ「救済」についての話だと思いました。 つまり、音楽とか、好きなモノ、好きな人でも何でも良いけど「ゴッド=救いになるモノ」って意外と身の回りに溢れているっていうメッセージ性。

 

劇中の「世の中に何千何万って曲があるのに、新しくバンドを組む意味ってあるのか?」っていう台詞が印象的でした。
鑑賞後の後味として「意味あるじゃん。あったじゃん。」って思わせてくれたのが最高。

 

10位『ヴィジット』

監督:M・ナイト・シャマラン

 

M・ナイト・シャマラン監督の、POV形式のホラーサスペンス。

ホラー映画って「お化け的なものの登場」までが怖くて、それ以降はトーンダウン、っていう事が多いと思うんです。でも、この映画は「怖い!・・けど怖がって良いのかコレ・・?」とか、「えっ、今俺笑っちゃったけど、不謹慎だよな・・?」みたいなバランスで進行していくので、話の推進力が全く落ちませんでした。

 

しかもホラー映画でありながら、主人公兄妹がトラウマに立ち向かって成長していく青春映画って側面もあるので、怖くて笑えて叫んだあげく、感動の落涙までさせてくれる、最高にコストパフォーマンスの良い映画でした。

 

【誰が観ても面白い系7本】

 

『ビッグ・アイズ』

『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』

『アントマン』

『Re:LIFE』

『マイ・ファニー・レディ』

『エール!』

『マイ・インターン』

 

【ベスト10には入れてないけど最高系8本】

 

『ラブストーリーズ コナーの涙/エリナーの愛情』

『プリデスティネーション』

『チャッピー』

『サンドラの休日』

『きみはいい子』

『ナイトクローラー』

『わたしに会うまでの1600キロ』

『私たちのハァハァ』

『キングスマン』

『クリード チャンプを継ぐ男』

 

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